生態系環境再生

アメリカのワシントンDC に本部を置く「生態系環境再生ソサエティ」は、世界60ヶ国の大学と研究所を結ぶ科学者ネットワークを持つ生態系再生のトップ研究機関です。
最近、世界の生態系再生研究で良く扱われているテーマが「人が介在する方式で生態系を再生しようとした場合の自然に与える影響と再生効率」です。
私たちの年間を通しての研究テーマのひとつが、海洋ゴミと共に移動する海洋生物(植物性、動物性プランクトンを含む)の調査です。それと共に、最近では毎年夏に世界各地の研究者のフイールドワークが活発化する時期に合わせ、「生態系環境再生ソサエティ」に参加しているワシントン大学の教授の最新研究内容についても、直接聞いています。
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Restoration Work Party at Saltwater Park, Shoreline, WA
Photo Courtesy: School of Environmental and Forest Sciences, University of Washington


生態系環境の再生については、日本でも環境省により生態系と自然環境を取り戻すことを目的とした 「自然再生推進法」が平成15年に施行され、それに続いて多くの団体やNPOが生態系と自然再生事業(主に植林事業)を進めていますが、現行の再生事業実施方式やこれまで考えられてきた自然を取り戻すための方式と最新の研究成果との間には大きな懸隔、ギャップが生じています。

ここからが本題です。

最新の研究では、樹木や植物も生態系の中では動物と同じように環境変化や森林火災などの危機の中でも生き伸び、子孫をつないでいくためのノウハウを備えたDNA フットプリントのリレーや、互いにコミュニケーションを行い相互の生存保証を考えながら成長を続けるメカニズムの存在なども分かりました。特に同じ種類の樹木同士や自分たちに益となる他の樹木には必要に応じて地下ネットワークを発達させ根を絡ませ合い、二酸化炭素を補給している事実に驚かされます。

これら最新研究で分かることは、植物も動物と同じように一旦人の手で育てられたものは、本来の自然では生き延びることが難しくなってしまう、ということです。
つまり、一旦失われた生態系で新たに森や植物群を再生しようとしても、植えっぱなしでは原生の生態系のように育つのが難しく、しかも最も大切なリ・プロダクション(再生)の確率がとても低くなることです。 言い換えるなら、一旦失われた生態系を再生しようとすると、後はどこまでも人の手をかけ続けなけれは、生かし続けることが出来ないということです。

その理由は、人が苗圃や温室で育てた樹木の苗には新しく植えられた場所で育ち続けるための情報を一切持っておらず、移植後自分でその地域独特の環境に順応する力や干ばつ、森林火災、害虫、バクテリアの繁殖などに負けずに成長を続けるための知恵と言っても良いノウハウがDNA内に記録されていないためです。

生態系環境再生に関する最近の研究では、各生態系グループごとの自然再生力をj持続させるためには、全体の何パーセントまでの開発が許されるのかを含めた持続可能限界比率が算出できるようになっています。

残念ながら、宮古島では多くの地域が自然再生のための持続可能限界比率を越えている状況ですので、島全域の生態系を持続させるためには子供や動物を育てる感覚でとことん手をかけ、樹木が自ら宮古島で生存・再生を続けるためのノウハウを成長メカニズムに取り込むまでの長期間、たゆまず再生作業を続ける必要があります。

未来のための海岸保全施設整備事業

 世界の多くの大学の環境土木工学部(環境エンジニアリング)の研究プロジェクトに、「土壌の海への流出をどのように防止するか」と、「海岸浸食を防ぐ新工法の開発」があります。

 世界の気候変動による降雨量の増加による土壌の海への流出や、海面上昇による海岸線の浸食をどのように防ぐことが出来るかがプロジェクトテーマですが、その中心となるのが生態系に十分配慮した形での解決法であり、日本で未だに行われている海と陸地をコンクリートで分断する海岸保全施設整備事業とは、全くコンセプトの異なるものです。

 島嶼地域は、少ない陸地面積の多くが島民の生活のために畑地化されたことで森林生態系が少なく、その上観光開発などによって海岸に接する地域では生態系を有する面積がさらに減少しており、生態系への影響を最小限にとどめ、海と陸地を分断しない方式による赤土の流出防止策や海岸線の浸食防止対策の緊急性が高くなっています。

 多くの離島が観光を基幹産業とすることをめざし、将来はさらに多くの観光客を誘致することで島の経済を成り立たせたいと考えていますが、過去に行われてきた海と陸地をコンクリートで分断する海岸保全施設整備事業などにより、島の随所に観光地としては残念な風景が数多く出来上がっています。

 現在では開発途上国でも採用されることの少なくなった、コンクリートを多用した形での海岸保全施設整備事業によって台無しになった島の景観を取り戻すために必要とされるのが「リ・イメージング」です。 日本では、リメイクと混同されて使われる事がありますが、リメイクは以前にあったストーリーや作品をベースに新しい解釈を加えて作り上げることを言いますが、リ・イメージングは、同一テーマに対して新しい考え方や手法により、新コンセプトに相応しい全く異なったものを作り上げることを言います。

 つまり「リ・イメージング」による海岸保全施設整備事業とは、生態系への影響を最小限にとどめ、海と陸地を分断しない方式による赤土の流出防止策や海岸線の浸食防止対策です。景観上だけでなく生態系を具体的に取り戻すために、コンクリートが全く表面に出ない工法により、本来の原生植生でおおわれているが、しっかりと赤土の流出を防ぎ、海岸浸食のスピードもある程度抑えることのできる保全事業を目指します。

 そのための第一段階が、研究所と自治体の協力による数々の試作であり、長年にわたるノウハウの蓄積です。 その後、ある程度の効果が期待できる方式が出来上がった段階で離島振興計画予算などを有効利用し、海岸線を固めていたコンクリートを破砕し、取り除き新方式の海岸線保全整備を行います。

 ある意味、これまでは「どこでもいい、コンクリートを流し込める場所を探せ!」が振興予算による事業計画の実態だとすれば、今後は新方式の海岸保全事業を推進するために、「コンクリートが露出している所は順次破砕し、取り除いていこう!」が、離島を昔以上の美しい島にして未来に残してあげることのできる第一ステップかも知れません。

エコツーリズムについて再考する

エコツーリズムに関し、日本では最初の定義の設定段階で既にビジネスに軸足をおいた内容となっており、その後のエコツーリズムの運用のベースになっています。 このエコツーリズムの定義は、スペインのマドリッドに本部を置く国連組織のひとつ、世界観光機関 (The World Tourism Organization) の持続可能な観光開発としてのエコツーリズムの定義から日本の観光業界に適応させる形で応用したもののようです。

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ただ、世界観光機関のエコツーリズムの定義は、「自然環境の保護と地元の人々が満足して生活をつづけることができる環境を守る」 事を第一義としています。つまり、「そこにある自然と、そこに住んでいる人々と生活・文化をリスペクトする」ことにあります。

コマーシャルベースのエコツーリズムでも自然やその地域の人々にとって 「ウインウインの関係になる」 との説得性を持たせる典型的な表現が 「エコツ-リズムは、地元の人々の経済的な利益と雇用につながります。」 です。

しかし、現実には生態学的環境保護と観光開発による相互作用は地元の自然と人々の生活に数々の不都合を生み出します。 その意味は、相互のための共棲関係を作るということが必ずしも相利共生の関係を導き出すことにならないという生物学的理論と同じです。 その理由は、自然の生態系にとって観光が存在手段の必要条件ではないことにあります。

「そこにある自然と、そこに住んでいる人々と生活・文化をリスペクトする」ためのエコツーリズムをいかにして生み出すかは、素晴らしい自然を持つ日本の多くの観光地にとってこれから先本格的に取り組むに値する重要な課題です。

世界観光機関によるエコツーリズムのオリジナル定義については、こちらでご確認頂けます。

失われた生態系を再生する4つのステップ

宮古島の生態系

失われた宮古島の生態系を取り戻すには、どのようなプロセスが必要でしょうか?
一度失われた、あるいは失われつつある生態系を取り戻すにはとても多くの作業が必要です。 それらを作業グループ別に分けると、上の図にある4つのプロセスになります。

1. 植物や生き物の数が減った原因を究明(リサーチ)する
消滅あるいは消滅の危機にある植物や生き物の数が減った原因を究明(リサーチ)します。
このプロセスは教育上とても良い体験となりますので、小学生から中学、高校生まで、クラスごとの自由研究として作成してみましょう。 宮古島キッズネットによる自由研究のための参考フォーマットには以下の調査課題があります。

(a.) ;あなたの住んでいる地域の植物と生き物は、昔と今とではどのように変わりましたか? 家族や近くのお年寄りの助けをかりて、昔はあったのに今はあまり見かけなくなった植物や生き物をリストアップしましょう。
(b.) それらの植物や生き物がなぜ無くなったり、消滅の危機にあるのでしょうか? 原因をできるだけ詳しく調べてみましょう。
(c. ) 昔の土地の利用状況と今の利用状況を絵に描いて、その違いを比べてみましょう。
(d.) (c.)の変化によって失われたものは何かを調べてみましょう。
(e.) (c.)を昔の状況に戻す方法はありますか? もし無いのであれば、その地域内の他の場所で昔の状態に近い環境を再生する方法を考えてみましょう。

(a.) から (e.) .までのプロセスは学生だけが対象ではなく、このプロジェクトを進める地方自治体や県、国など行政が行う場合でも同じ内容のリサーチが必要になります。

2. 再生させるための構想(プラニング)を組み立てる
消滅の危機にある植物や動物のなかで、急いで再生しなければならないものに優先順位を付けて、優先順位の高いものから再生させるための構想(プラニング)を組み立てます。

3.生態系の再生計画と作業工程(エンジニアリング)の作成
生態系の再生プロジェクトで最も大切なプロセスが再生計画とプロジェクトを順調に進めるための作業工程 (エンジニアリング)です。

STEP 1:
まず、失われた原因を取り除くことです。 取り除くことが完全にできないときは代替、つまりこれに代る植物や生き物が生きやすい環境を作ります。
STEP 2:
新しく育てる植物や生き物が間違いなく地元の原生種であることを確認するために、DNA検査を行います。
STEP 3
植物や生き物の専門家や民間研究者の助けを借りて、再生を確かなものにするための技術的なロードマップを作ります。
STEP 4:
現在そして未来環境での生態系維持を確実に生存させるための技術開発を行い、ノウハウの蓄積を続けます。

4.再生後その状態を持続させる(サステイニング)体制作り
再生後その状態を持続させる(サステイニング)ことが、生態系を取り戻すプロセスで最も難しいものです。 再生の第一世代を育てるのは、インキュベーション手法で以外にあっさりと出来ますが、問題は自然環境の中で植物や生き物の繁殖活動がうまく始まるかどうかです。

これが出来ていなかったり、繁殖活動が活発かつ順調に行われない場合は一時的な効果だけで、生態系を取り戻したことにはなりません。 世代を繋いで継続できる総合的な体制作りが必要です。

また、行政は予算のある時のみ事業支援が可能となりますが、切れ間のない社会事業や環境事業を続けるためには地元の市民レベルでの事業参加体制と必要資金の調達方式をしっかりと作り上げる必要があります。

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Author:宮古島プロジェクト

宮古島をはじめ離島で暮らす人々の将来のために島を活性化し、島民が心豊かに暮らすことの出来る場所にするための活動モデルをプラットフォーム上で構築するのが、ゆうやなうれ宮古島プロジェクトです。

このブログでは、主に離島の抱える問題に関する世界の参考データや資料を紹介しています。

ゆうやなうれ宮古島プロジェクトはいずれの団体、組織、特定の政治や思想グループにも属さず、影響を受けることの無い完全独立系の活動組織です。

(宮古島プロジェクト 運営管理部)

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