持続可能な到達目標

un-sustainable-development.jpg
Photo Courtesy: United Nations Department of Economic and Social Affairs

2012年ブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議 (リオ+20)」で採択された成果文書には17の到達目標があります。これを基に2015年まとめ上げられた到達目標にそって国連の専門家作業部会による具体的な活動が現在も続いています。

私たちは、国連の採択内容や到達目標については通常ニュースなどで見出しや大まかな解説を見聞きするだけですが、具体的内容について知る機会はほとんどありません。しかも、国際会議における成果文章の内容と私たちの地方の生活とが結びつくことは少ないと考えられ、現実にはほぼ別世界での話で終わります。

ところが、国連の各作業部会の調査結果や活動内容を見ていくと、宮古島はもちろん、地域のリーダーにとっては自分の指導や具体的な活動目標を作り上げる上で「宝の山」と言えるほどの貴重な参考資料を大量に入手することができます。

国連は、私たち地域に住む者にとっては達成不能の膨大な予算と豊富な人材を世界中から集め調査・分析を続けています。さらに、専門家によって開発された実現可能な実行プロセスのためのシュミレーションや、世界各地で時間をかけて実施した実験的な試みと信頼性の高い結果報告なども公開しており、自由にネット上でも見ることができます。

私たちがこのブログ上でいつも紹介する内容は宮古島発信の情報でなく、宮古島の人々に見てもらいたい情報やデータです。地方をビジネスチャンスとして利用したい人々は地方からの発信力をまず強調しますが、今地方に住む指導者に必要なものは発信力ではなく受信力です。その理由は、よりしなやかな長期展望をするために必要なのは「人々はどう考え、実行し、どのような結果を得ることが出来たのか」についての豊富な情報・データであり、それらをしっかりと蓄え、独自の到達目標を自前で設定することで地方での持続可能な発展のための歩みを着実に進めることができると考えるからです。

生態系環境再生

アメリカのワシントンDC に本部を置く「生態系環境再生ソサエティ」は、世界60ヶ国の大学と研究所を結ぶ科学者ネットワークを持つ生態系再生のトップ研究機関です。
最近、世界の生態系再生研究で良く扱われているテーマが「人が介在する方式で生態系を再生しようとした場合の自然に与える影響と再生効率」です。
私たちの年間を通しての研究テーマのひとつが、海洋ゴミと共に移動する海洋生物(植物性、動物性プランクトンを含む)の調査です。それと共に、最近では毎年夏に世界各地の研究者のフイールドワークが活発化する時期に合わせ、「生態系環境再生ソサエティ」に参加しているワシントン大学の教授の最新研究内容についても、直接聞いています。
UW-RestrationWorkParty.jpg
Restoration Work Party at Saltwater Park, Shoreline, WA
Photo Courtesy: School of Environmental and Forest Sciences, University of Washington


生態系環境の再生については、日本でも環境省により生態系と自然環境を取り戻すことを目的とした 「自然再生推進法」が平成15年に施行され、それに続いて多くの団体やNPOが生態系と自然再生事業(主に植林事業)を進めていますが、現行の再生事業実施方式やこれまで考えられてきた自然を取り戻すための方式と最新の研究成果との間には大きな懸隔、ギャップが生じています。

ここからが本題です。

最新の研究では、樹木や植物も生態系の中では動物と同じように環境変化や森林火災などの危機の中でも生き伸び、子孫をつないでいくためのノウハウを備えたDNA フットプリントのリレーや、互いにコミュニケーションを行い相互の生存保証を考えながら成長を続けるメカニズムの存在なども分かりました。特に同じ種類の樹木同士や自分たちに益となる他の樹木には必要に応じて地下ネットワークを発達させ根を絡ませ合い、二酸化炭素を補給している事実に驚かされます。

これら最新研究で分かることは、植物も動物と同じように一旦人の手で育てられたものは、本来の自然では生き延びることが難しくなってしまう、ということです。
つまり、一旦失われた生態系で新たに森や植物群を再生しようとしても、植えっぱなしでは原生の生態系のように育つのが難しく、しかも最も大切なリ・プロダクション(再生)の確率がとても低くなることです。 言い換えるなら、一旦失われた生態系を再生しようとすると、後はどこまでも人の手をかけ続けなけれは、生かし続けることが出来ないということです。

その理由は、人が苗圃や温室で育てた樹木の苗には新しく植えられた場所で育ち続けるための情報を一切持っておらず、移植後自分でその地域独特の環境に順応する力や干ばつ、森林火災、害虫、バクテリアの繁殖などに負けずに成長を続けるための知恵と言っても良いノウハウがDNA内に記録されていないためです。

生態系環境再生に関する最近の研究では、各生態系グループごとの自然再生力をj持続させるためには、全体の何パーセントまでの開発が許されるのかを含めた持続可能限界比率が算出できるようになっています。

残念ながら、宮古島では多くの地域が自然再生のための持続可能限界比率を越えている状況ですので、島全域の生態系を持続させるためには子供や動物を育てる感覚でとことん手をかけ、樹木が自ら宮古島で生存・再生を続けるためのノウハウを成長メカニズムに取り込むまでの長期間、たゆまず再生作業を続ける必要があります。

タイ政府国立公園・野生動植物保護局の本気度

 先月、5月17日にCNNやワシントン・ポスト、BBC をはじめ世界のメディアが好感を持って伝えたニュースがあります。 それは、以下のような記事でした。

************************************************
 タイ政府国立公園・野生動植物保護局は5月16日、環境と生態系保護のため世界の観光客に人気の島全域を一定期間観光客の立ち入りを禁止することを決定しました。 この島は、日本でも 「タイ王室御用達の避暑地」 としてよく知られた観光地、プーケットの北西130㎞にあるスミラン諸島のひとつ、コ・タチャイ島です。 島の面積は12平方キロと小さい島ですが、素晴らしいサンゴ礁があり世界のダイバーにとっては理想的なダイビングポイントとして知られ、スクーバダイビングを楽しむ観光客も増えていました。

 国立公園・野生動植物保護局のトゥンヤ・ネシシヤマクル局長によると、「この島の生態系の多様性を守るためには、1日の観光客数は70人以内、観光客の集中するピーク時でも期間限定で最大限1日200~300人が限度です。」 とのこと。 しかし、国立公園・野生動植物保護局が実態調査したところ、最近では毎日2000人もの観光客がこの島に押し寄せていることが分かりました。 

 そのため、生態系への影響調査をすると、海中や河岸地域へのゴミの不法投棄の増加、ダイバー客を運ぶボートの整備不良などによるエンジンオイルや燃料漏れによる汚染、プーケットなど対岸から一泊でやって来て勝手に海岸にテントを設置するダイバーが放置した生ごみや食べ残しなどが散乱する状況となっていました。

 この調査後、国立公園・野生動植物保護局では直ちにコ・タチャイ島を観光客立ち入り禁止に指定しました。 また、今後スミラン諸島の他の島々でも同様の調査を続け、生態系の疲弊が確認された島は速やかに観光客の入域を禁止し復元作業を開始するとしています。 更にタイ政府は、観光客により本来の生態系が失われつつあるところは、生態系そのものが観光資源であるので、その大切な観光資源を守るために離島だけでなく、本土の観光地でも同様に立ち入り期間を制限して、エコロジー環境を守りたいとしています。
*************************************************

 ただ、ワシントン・ポスト紙が伝えるところでは、5月17日現在でバンコクの旅行社の一部でコ・タチャイ島へのダイビングツアーを販売しているところもあり、政府の通達及び実施体制の速やかな徹底が望まれます。 いずれにしても勇断であり、観光資源を守りたいというタイ政府国立公園・野生動植物保護局の本気度が伝わります。

 日本で考えると開発途上国では、国家単位での政策決定や実行に時間がかかる、あるいは形にしにくいとの考えもあるようですが、2000年以降特にアジア、中東、アフリカにはアメリカやイギリスの大学院を卒業し自国に戻り、世界基準の的確な政策決定モデルを作ることのできる多くの若者が政府中枢で活躍しています。

 下の写真は、来間島の長間浜ビーチのようにみえますが、コ・タチャイ島のビーチです。
koh-tachai-kurima580.jpg
Photo courtesy: similan-islands.com/koh-tachai

離島の観光産業と "漏損(ろうそん)"

 Leakage というと、一般的には漏れ、漏出、濾出物などを言いますが、2000年代に入り新たな統計学や経済学上の概念として、アメリカの研究所などで Leakage が使われ始めます。 そして2005年頃になると、中国返還10年を経て貨物が経由しない「離岸貿易(三国間貿易)」が増加した香港の経済界がこの概念を "漏損(ろうそん)"という漢字で表現するようになりました。

 さて、この漏損もいくつかの使い方がありますが、地方や離島など経済の中心地や経済活動が活発な地域から離れている場所での経済状況を正確に解説するためには、とても重要な考え方となります。 ここでいう漏損とは、本来は島に還元され、島民の生活を潤させる原資となるべき資産が本土の企業や海外の企業に吸い取られてしまい、島民のために活かされない状況を言います。

 今年3月国連本部で開催された、国連小島開発会議の内容を見ると世界の島々は現在気象変動や環境対策、安全保障対策、医療対策、経済対策などほぼすべての分野で共通した緊急対策が必要な状況となっていることが良く分かります。

 中でも、島民の生活を保障する経済対策として観光客の誘致により島の活性化を実現したいと考え、実行した島々には次のような問題が発生しました。

1.ホテルやそのほかの宿泊施設の急増による水不足、電力不足、下水処理施設の処理能力不足、ゴミ焼却施設の処理能力不足が発生し、結果として一般島民の生活インフラ全般のサービス力が低下した。

2.観光客数が急増したにもかかわらず、行政府には必要なインフラ整備を行う財政収入が得られない状況が長く続く。

3.観光関連事業の多くで"漏損"が確認出来た。 それらには・・・
(a) 外部資本のホテルでは、そのホテルが送り込んだ大量の本土採用のスタッフにより運営されており、地元の雇用はごく限られた職種のみとなっている。 そのため、人件費も本土の銀行に振り込まれる。
(b) 本土の旅行代理店によって作られたアイテネラリー(旅程表)をもとに、島の業者は厳しい安値契約を求められる。 島の業者の通常価格と旅行業者が求めた割引価格の差額(損益)が島の経済にとっては具体的な"漏損"となる。
(c) 本来島内の業者が受けるべき収益から次々と"漏損" が生じているが、その典型が旅行会社により要求されるキックバックあるいはマージンであり、宿泊施設から、レストラン、土産屋にいたるまで旅行業者が手を付けたところではほぼくまなく徴収される。 しかも、現在では海外の旅行業者までが現金でキックバックの支払いを求め、自国に持ち帰ります。

4."漏損" による減収をさらなる観光客誘致により切り抜けようとすると、島の生態系や島の自然が持つ再生力・復元力を越えた乱開発を行うところまで追い込まれる。 その結果、復元が不可能なステージまで環境破壊が進む。 

5.この傾向が進むと、静寂でリラクゼーション空間であるはずのリゾート地にジェットスキーの騒音や拡声器から大音量の音楽が流れ始めるなど、都会のアミューズメント・パークと同じ光景が多く見られるようになり、リゾートとしてのクオリテイを劇的に落とし、観光客が遠のくという悪循環が始まる。

 これは世界に共通する現象ですが、皆さんは今の宮古島はどのあたりにあるとお考えですか?

未来のための海岸保全施設整備事業

 世界の多くの大学の環境土木工学部(環境エンジニアリング)の研究プロジェクトに、「土壌の海への流出をどのように防止するか」と、「海岸浸食を防ぐ新工法の開発」があります。

 世界の気候変動による降雨量の増加による土壌の海への流出や、海面上昇による海岸線の浸食をどのように防ぐことが出来るかがプロジェクトテーマですが、その中心となるのが生態系に十分配慮した形での解決法であり、日本で未だに行われている海と陸地をコンクリートで分断する海岸保全施設整備事業とは、全くコンセプトの異なるものです。

 島嶼地域は、少ない陸地面積の多くが島民の生活のために畑地化されたことで森林生態系が少なく、その上観光開発などによって海岸に接する地域では生態系を有する面積がさらに減少しており、生態系への影響を最小限にとどめ、海と陸地を分断しない方式による赤土の流出防止策や海岸線の浸食防止対策の緊急性が高くなっています。

 多くの離島が観光を基幹産業とすることをめざし、将来はさらに多くの観光客を誘致することで島の経済を成り立たせたいと考えていますが、過去に行われてきた海と陸地をコンクリートで分断する海岸保全施設整備事業などにより、島の随所に観光地としては残念な風景が数多く出来上がっています。

 現在では開発途上国でも採用されることの少なくなった、コンクリートを多用した形での海岸保全施設整備事業によって台無しになった島の景観を取り戻すために必要とされるのが「リ・イメージング」です。 日本では、リメイクと混同されて使われる事がありますが、リメイクは以前にあったストーリーや作品をベースに新しい解釈を加えて作り上げることを言いますが、リ・イメージングは、同一テーマに対して新しい考え方や手法により、新コンセプトに相応しい全く異なったものを作り上げることを言います。

 つまり「リ・イメージング」による海岸保全施設整備事業とは、生態系への影響を最小限にとどめ、海と陸地を分断しない方式による赤土の流出防止策や海岸線の浸食防止対策です。景観上だけでなく生態系を具体的に取り戻すために、コンクリートが全く表面に出ない工法により、本来の原生植生でおおわれているが、しっかりと赤土の流出を防ぎ、海岸浸食のスピードもある程度抑えることのできる保全事業を目指します。

 そのための第一段階が、研究所と自治体の協力による数々の試作であり、長年にわたるノウハウの蓄積です。 その後、ある程度の効果が期待できる方式が出来上がった段階で離島振興計画予算などを有効利用し、海岸線を固めていたコンクリートを破砕し、取り除き新方式の海岸線保全整備を行います。

 ある意味、これまでは「どこでもいい、コンクリートを流し込める場所を探せ!」が振興予算による事業計画の実態だとすれば、今後は新方式の海岸保全事業を推進するために、「コンクリートが露出している所は順次破砕し、取り除いていこう!」が、離島を昔以上の美しい島にして未来に残してあげることのできる第一ステップかも知れません。

プロフィール

宮古島プロジェクト

Author:宮古島プロジェクト

宮古島をはじめ離島で暮らす人々の将来のために島を活性化し、島民が心豊かに暮らすことの出来る場所にするための活動モデルをプラットフォーム上で構築するのが、ゆうやなうれ宮古島プロジェクトです。

このブログでは、主に離島の抱える問題に関する世界の参考データや資料を紹介しています。

ゆうやなうれ宮古島プロジェクトはいずれの団体、組織、特定の政治や思想グループにも属さず、影響を受けることの無い完全独立系の活動組織です。

(宮古島プロジェクト 運営管理部)

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

RSSリンクの表示

リンク

QRコード

QR
Copyright © 宮古島プロジェクト